「遺言書とはどのようなものですか」

「遺言書とはどのようなものですか」と言われて、「ああ、遺言とはこのようなものだよ」と説明できる人はあまりいないのではないでしょうか。遺言書は、「誰に」、「自分のどの財産を」、「承継させる」かを示した文書と一般的には知られているかと思います。しかし、それが遺言の全てでは ありません。遺言書には、法的効力に止まらず、財産の多い少ないに関わらず全ての人が作成した方が良いメリットがあります。


そこで、今回はなぜ遺言書を作成した方が良いのかを説明していくことで、遺言とはどのようなものか紐解いていこうと思います。

トラブルの回避

相続争いの回避

一般的に言われているのが、「相続争い」というトラブルの回避です。
「死んだ後まで自分のことで争ってほしくない」と考えるのは、自然なことだと思います。そのような思いで遺言書を作成される方も多くいらっしゃるかと思います。


「うちはみんな仲いいから」と安心しきってしまうのも少々危険かもしれません。「両親の前でいがみ合う姿を見せたくないという気持ちがあり、両親の前では仲良く振る舞っておりましたが実は…」という場合もあり得ます。疑い出したらきりがありませんが、実のところはどうなのか、といったことは確かめようがないというのもまた事実です。このような万が一に備えて、親族の仲が良い場合であっても遺言書は作成すべきでしょう。

遺産分割の煩雑さの回避

仮に、本当に親族みな仲良しであったとしても、遺言書を書くべきだと言えます。
金銭など分割が容易なものしかないのであれば、比較的苦労はしないでしょう。では、不動産がある場合はどうでしょうか。兄弟仲良く均等に分割しようという意見で一致していたとしても、「お父さん(またはお母さん)が持っていた土地と家どうしよう、どうやって分けよう」といったことで頭を悩ませてしまうかもしれません。


身内の方が亡くなると、様々な準備や手続などで本当に慌ただしくなります。そのような状況の中で相続手続となると、時間的にも精神的にも大変な思いをすることになります。そうならないためにも、しっかり考える時間があるうちに遺言書を作成することで、あとに残す負担も少なくしてあげることができます。

特定の人に遺産を渡す・寄付する

法定相続人以外の人に遺産を渡したい場合

仮に親族の方がいない場合、債務が清算された後に残された財産は国庫に帰属することになります( 959条)。
しかし、遺言書では、法定相続人がいない場合であっても、あるいは法定相続人以外の人にも、「〇〇さんに遺産を渡したい」という意思を示すことができます。そして、これによりその人に自己の財産を承継させることができます。


さらに、例えば「自分には、自分の財産を残したい人はいないけど、犬が好きなので然るべき機関に寄付したい」といった内容の遺言書を作成することもできます。

あなたの想いを伝える

遺言書には、感謝などの想いを綴ることができます。これは付言事項と言います。
付言事項に法的効力はありませんが、遺言書に感謝の言葉などを入れたとしても、それだけで無効な遺言書となることはありません。
「遺言は最後の意思表示」と言われることがあります。最後の意思表示を「相続させる」旨だけで終わらせるのではなく、あなたの想いも付言事項として載せるのも良いのではないでしょうか。

詳しくは専門家に相談しましょう

よしと意気込んで遺言書を作成しても、無効な遺言書となっては苦労も水の泡になってしまいます。亡くなった後に無効な遺言書であることが発覚したとなっては目も当てられません。そうならないためにも、遺言書を作成する前に、しっかり専門家に相談しましょう。

日本の法律のもとにおいては、遺言は大きく分けて(1)普通の方式の遺言(普通方式遺言)、(2)特別の方式の遺言(特別方式遺言)の2種類があります。

遺言者の真の意思を記載させるため、原則的には厳格な方式に則った(1)の普通方式遺言をすることが求められます。

※(1)の普通方式遺言(普通方式遺言)についてはこちらの記事(「法律上の効力を有する遺言書の書き方」)をご覧ください。

しかし、普通方式遺言ができない場合の遺言の方式として、(2)の特別方式遺言が認められるケースがあります。この記事では特別方式遺言について解説していきます。

特別の方式の遺言(特別方式遺言)

特別方式遺言とは、病気やケガなどで死期が目前に迫っていたり、乗っている船舶が遭難していたり、伝染病によって隔離されている場合など、普通の方式の遺言ができない場合に作成する遺言です。以下のような種類があります。

1.危急時遺言

・死亡の危急に迫った者の遺言(死亡危急時遺言)

病気やケガなどによって死が間近に迫っている人は以下の方法で遺言ができます。

ア.疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言者であること

イ.証人3人以上の立会いがあること

ウ.証人のうちの1人に遺言者が遺言の趣旨を口授すること

エ.口授を受けた者がその内容を筆記し、遺言者と他の証人に読み聞かせる又は閲覧させること

オ.各証人が筆記の正確なことを承認した後、各証人が署名と押印をすること

船舶遭難者の遺言(難船危急時遺言)

遭難中の船舶や飛行機に乗っている人は以下の方法で遺言ができます。

ア.船舶や飛行機が遭難した場合において

イ.その中で死亡の危急に迫った者は

ウ.証人2人以上の立会いのもと

エ.口頭で遺言をすることができる

オ.証人がその趣旨を筆記して署名と押印をする

2.隔絶地遺言

伝染病隔離者の遺言(一般隔絶地遺言)

伝染病や災害や暴動などによって交通途絶地にある場合、以下の方法で遺言できます。

ア.遺言者が伝染病などのため行政処分によって交通を断たれた場所に在ること

イ.警察官1人及び証人1人以上の立会いがあること

ウ.遺言者、立会人、証人などの署名および押印があること

在船者の遺言(船舶隔絶地遺言)

遺言者が船に乗っている場合は以下の方法で遺言ができます。

ア.遺言者が船舶中に在ること

イ.船長又は事務員1人および証人2人以上の立会いがあること

ウ.遺言者、立会い者、証人などの署名および押印があること

特別方式遺言の注意点

上記の特別方式遺言を行った場合、遺言者が普通方式遺言によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存した時は、無効になりますのでご注意ください。別途、普通の方式の遺言を行うことをおすすめいたします。

令和2年7月10日に施行された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」によって自筆証書遺言書保管制度が新設されました。この制度は、従来の自筆証書遺言の保管方法に伴うリスクを回避するとともに、相続手続の円滑化を図ろうとするものです。今回は、この自筆証書遺言書保管制度について解説していきます。

制度の背景

遺言の方式には様々なものがありますが、作成件数が多いのは、公正証書遺言と自筆証書遺言です。

公正証書遺言は、法律の専門家である公証人によって作成される遺言で、その原本は公証役場にて保管されます。また、公正証書遺言については、自筆証書遺言の場合とは異なり、家庭裁判所による検認は不要です。

これに対して、自筆証書遺言は、遺言者自身が作成する遺言です。これまでは、自筆証書遺言については、遺言者自身が自宅等で保管するのが通常でした。この保管方法だと、遺言書が紛失したり、遺言者の死亡後に発見されなかったり、遺言書の破棄や改ざん等が行われたりするおそれがあります。こうしたリスクに対応するために公的機関である法務局(遺言書保管所)による遺言書の保管を認めたのが、自筆証書遺言書保管制度です。

なお、従来どおり、自宅等で遺言書を保管することも可能です。

制度の概要

遺言者の生前

遺言者本人が遺言書を作成し、管轄の遺言書保管所に遺言書の保管を申請します。申請を受けた遺言書保管所は、自筆証書遺言の方式についての外形的な確認(全文・日付・氏名の自書、押印の有無等)を行った後、遺言書の原本とデータを保管します。

遺言者は、閲覧請求をすることで、遺言書保管所で保管されている遺言書の内容を確認することができます。また、遺言者は、保管の申請を撤回することで、預けた遺言書を返還してもらうこともできます。

なお、遺言者は、保管の申請時以降に氏名や住所等に変更があった場合には、その旨を届け出る必要があります。

相続開始後(遺言者の死後)

  1. 遺言書が預けられているかどうかの確認
    相続人、遺言執行者、受遺者等は、遺言書保管事実証明書の交付を請求することで、特定の遺言者の、自らを相続人、遺言執行者、受遺者等とする遺言書が保管されているかどうかを確認することができます。遺言書が保管されている場合には、以下の②や③によって、遺言書の内容を確認することができます。

  2. 遺言書の内容の証明書の取得
    相続人、遺言執行者、受遺者等は、遺言書情報証明書の交付を請求することで、遺言書保管所に保管されている遺言書の内容の証明書を取得することができます。この証明書は、登記や各種手続に利用することができます。また、家庭裁判所の検認は不要です。なお、遺言書保管所は、遺言書情報証明書を交付した場合、交付を受けた人以外の相続人等に対して、遺言書を保管している旨を通知します。

  3. 遺言書の閲覧
    相続人、遺言執行者、受遺者等は、遺言書の閲覧の請求をすることで、遺言書保管所で保管されている遺言書の内容を確認することができます。遺言書の原本を閲覧する場合には、遺言書の原本が保管されている遺言書保管所でのみ閲覧の請求ができますが、モニターによって遺言書の画像を閲覧する場合には、全国のどの遺言書保管所でも閲覧の請求ができます。なお、遺言書保管所は、相続人等による遺言書の閲覧があった場合、その人以外の相続人等に対して、遺言書を保管している旨を通知します。

最後に

自筆証書遺言書保管制度には、遺言書の紛失や改ざん等の回避や検認の省略というメリットがあります。

遺言は、法律が定める方式に従って作成されなければならず、この方式に従っていない遺言は無効とされてしまいます。そして、法律が定める遺言の方式としては、大別して「普通方式遺言」と「特別方式遺言」とがあり、普通方式遺言には、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つがあります。今回は、この3つの普通方式遺言の作成方法についてご説明していきます。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者自身が作成する遺言書のことです。費用が安価で手続も簡単というメリットがありますが、専門家によるチェックがないため、形式の不備などで無効となってしまうリスクがあります。自筆証書遺言の方式については、民法968条に定めがあります。

民法968条の内容

  1. 遺言者による全文・日付・氏名の自書+押印
    遺言者自身が、遺言の全文・日付・氏名のすべてを手書きで書き、押印しなければなりません。これらをパソコンなどで作成したり、家族の代筆によって作成したりすることはできません。なお、日付については、「〇年〇月〇日」といった形で具体的に特定する必要があります。

  2. 財産目録は手書き以外の手段でも作成可能
    自筆証書遺言に添付する財産目録を手書きで作成する必要はなく、パソコンなどで作成することも可能です。ただし、パソコンなどの手書き以外の手段で作成した財産目録については、各ページ(パソコンなどで作成した記載が両面にある場合は、その両面)に遺言者の署名と押印が必要です。なお、平成31年1月13日より前に自筆で作成した遺言書の財産目録がパソコンなどの手書き以外の手段で作成されたものである場合、その遺言書は無効となってしまいますので、ご注意ください。

  3. 自筆証書遺言の変更方法
    自筆証書遺言(これに添付する財産目録を含みます)を変更する場合は、遺言者が、変更箇所を指示し、これを変更した旨を付記したうえで、署名と押印をする必要があります。例えば、訂正の場合には、まず訂正箇所を二重線で消して訂正後の文字を書き込み、次に訂正箇所の付近に押印し、最後に欄外に「〇字削除、〇字加入」と記載して署名する、といった方法で対応することになります。

なお、令和2年7月10日に自筆証書遺言書保管制度が新設され、自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえるようになりました。この制度の概要については、法務局における自筆証書遺言書保管制度についてをご覧ください。また、この制度に基づく保管の対象となる自筆証書遺言書の形式面での注意事項と様式例については、法務省WEBサイト(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00057.html)をご確認ください。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証人に作成してもらう遺言書のことです。専門家である公証人が作成するため、形式の不備などで遺言書が無効とされるリスクは低いといえます。もっとも、他の方式と比べて費用と手間がかかるというデメリットがあります。公正証書遺言の方式については、民法969条と969条の2に定めがあります。

民法969条の内容

  1. 二人以上の証人の立合いが必要
  2. 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する
  3. 公証人が遺言者の②の口述を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させる
  4. 遺言者と証人が、公証人による③の筆記が正確なことを承認した後、署名と押印をする。遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記する
  5. 公証人が、①~④の方式に従って作成したものである旨を付記して、署名と押印をする

民法969条の2の内容

  6.言語機能が不自由な方が公正証書遺言を作成する場合、遺言者は、2.の「口授」の代わりに、公証人と証人の前で、遺言の趣旨を、手話などの通訳人の通訳によって申述するか、もしくは自書する必要がある

 7.遺言者や証人が聴覚の不自由な方である場合、公証人は、3.の筆記した内容を手話などの通訳人の通訳によって遺言者や証人に伝えることで、3.の読み聞かせに代えることができる

 8.公証人は、6.または7.の方法で公正証書遺言を作成した場合は、その旨を遺言書に付記しなければならない

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者自身が作成して、その存在を公証人に証明してもらう遺言書のことです。秘密証書遺言の方式については、民法970条と972条に定めがあります。

民法970条の内容

1.遺言者が証書に署名と押印をする必要があります。署名以外については、パソコンなどで作成したり、家族の代筆によって作成したりすることもできます

2.遺言者が証書を封じて、証書に用いたものと同じ印を使用して封印する必要があります

3.遺言者が公証人1人と証人2人以上の前に封書を提出して、自分の遺言書であることと、その筆者の氏名と住所を申述する必要があります

4.公証人が、証書を提出した日付と遺言者が述べたことを封紙に記載した後、遺言者と証人とともにこれに署名、押印します

5.秘密証書遺言の変更方法は自筆証書遺言の場合と同様です

民法972条の内容

6.言語機能が不自由な方が秘密証書遺言を作成する場合、遺言者は、3.の口頭による「申述」の代わりに、公証人と証人の前で、自分の遺言書であることと、その筆者の氏名と住所を、手話などの通訳人の通訳によって申述するか、もしくは封書に自書する必要があります

7.遺言者が6.の申述をした場合、公証人は、その旨を封紙に記載する必要があります

8.遺言者が6.の自書をした場合、公証人は、その旨を封紙に記載して、4.の申述の記載に代える必要があります

なお、秘密証書遺言は、民法970条の定める方式に従ったものでなくても、民法968条の定める方式に従ったものであれば、自筆証書遺言として有効となります。

その他

民法973条は一時的に事理弁識能力を回復した成年被後見人が遺言する場合の特則を、民法974条は証人と立会人の欠格事由を、民法975条が共同遺言の禁止を定めています。

遺言書は、さまざまなことに注意をしながら作成する必要があります。ここでは有効に遺言を作成するための注意事項についてご紹介したいと思います。

法律上禁止されている共同遺言

共同遺言とは、2人以上の人間が同一の証書(同一の遺言書)で遺言をすることをいいます(民法975条)。これは法律で禁止されています。遺言書を作成するときは、必ず一つの遺言書に1人の遺言のみを記載するようにしてください。

遺言をする上で必要な証人について

公正証書遺言や秘密証書遺言を行う場合、証人が2人以上必要です。では「証人」は具体的に誰に頼めばいいのでしょうか。

1.証人になるための資格

以下に該当する人物は遺言の証人になることができません(民法974条)。

  • 未成年者
    19歳未満の未成年者は証人になることが出来ません。20歳以上の人を選ぶ必要があります。
  • 利害関係人
    遺言者の推定相続人および受遺者は証人になれません。また推定相続人の配偶者および直系血族、受遺者の配偶者および直系血族も証人にはなれません。
    つまり相続で遺産を受け取る可能性のある人は証人になれないということです。
  • 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人は証人になれません

2.証人はどうやって探したらいいの?

  1. 士業に依頼する
    最も安心なのは弁護士・司法書士・行政書士などの士業の先生に依頼することです。士業であれば職業上、守秘義務を負っているため、遺言内容を口外される心配もありません。日ごろからお世話になっている士業の先生がいるという方はその先生に頼むと安心であり、また証人を探す手間も省けます。
    士業の先生に依頼する場合は、事前に見積もりを頼んでおくと、必要な費用がどのくらいか把握しておくことができます。
  2. 友人や知人にお願いする
    遺言内容を知られてもかまわない人物で、遺言内容を口外しないような信頼できる人がいる場合は、友人や知人にお願いをするということもできます。
    その場合は必ず費用が必要というわけではありません。ただ、遺言の証人という重要な役目をお願いするわけですから、多少の謝礼をお渡しする方がよいともいえるでしょう。また上記でも触れたように利害関係人は証人になれませんから、推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族にあたらない人を選ぶ必要があります。
  3. 公証役場で紹介してもらう
    士業の先生や友人・知人などで証人を頼める人がいない場合、公証役場で証人を紹介してもらうことができます。各公証役場によって費用などが異なるので、事前に問い合わせておくと必要な金額の目途が立つでしょう。

3.公証役場で紹介してもらう

士業の先生や友人・知人などで証人を頼める人がいない場合、公証役場で証人を紹介してもらうことができます。各公証役場によって費用などが異なるので、事前に問い合わせておくと必要な金額の目途が立つでしょう。

自筆証書遺言の作成中、誤字脱字をした場合

遺言書の作成中に誤字脱字や書き損じをした場合、訂正や加除をすることもできますが、遺言書の訂正の仕方は細かく決められており、その方式を充たさなければその訂正や加除は無効になってしまいます。

誤字脱字や書き損じをした場合、何らかの書き直したい場合は、なるべく新しい遺言書を書き直すことをおすすめいたします。自筆証書遺言の場合、遺言書本文はすべて手書きで作成しなければなりませんから(※)、書き直しの手間などを考えると作業量が多くなることが予想されます。(※自筆証書遺言について、財産目録はパソコン等で作成することも出来ます。)

遺言書の作成は、じっくりと取り組める時間のあるとき、またなるべく元気なときにおこなうのが望ましいといえるでしょう。

遺言ができる年齢

法律上、15歳以上の人は遺言ができると定められています(民法961条)。

日本の民法は「年齢20歳をもって、成年とする。」(民法4条)と定めて20歳から成人としており、20歳未満の未成年者の法律行為を一部制限しています。しかし遺言の場合においては遺言者の意思を尊重する必要性が高いことから、有効に遺言ができる年齢を15歳まで引き下げています。

遺言者が成年被後見人、被保佐人、被補助人の場合

1.日本の民法では、成年被後見人、被保佐人、被補助人による法律行為を一部制限する制限行為能力者制度というものが定められています。しかし遺言においては、遺言者の意思を尊重する必要性が高いことから、この制限行為能力者制度は採用されていません。

2.成年被後見人の場合
成年被後見人の方が遺言をしようとする場合、以下のことが必要になります(民法973条)。

  1. 成年被後見人が事理を弁識する能力を一部回復した時において遺言をすること
  2. 医師2人以上が立会いをすること
  3. 遺言に立ち会った医師が、「遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」旨を遺言書に付記して、署名と押印をすること
    ※秘密証書遺言の場合は、封紙に上記の旨の記載をし、署名と押印をすること

3.被保佐人、被補助人の場合

被保佐人や被補助人の方々も遺言ができますが、遺言をする時において意思能力があることが必要です(意思能力については後述しています)。遺言者が亡くなられた後の段階で、遺言当時に意思能力がなかったとして争われるケースもあります。そのような場合に備えて、以下のような対策が考えられます。

  • 意思能力がある旨の医師の診断書を用意しておく
  • 遺言書を作成している様子をビデオ録画するなどして記録しておく

などの方法により、遺言したときに意思能力があったことを証明できる証拠を残しておくことをおすすめいたします。

遺言者に意思能力がない場合

「意思能力」とは 

意思能力とは、「自己の行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力(事理弁識能力)」のことをいうとされています。もう少し噛み砕いていうと、自分が行った行為についてその結果を判断できる能力のことだといわれています。認知症や重い精神病を患ってらっしゃる方について意思能力がないと判断されるケースがありえますので注意が必要です。

遺言を行った時点において遺言者に意思能力がなかった場合、遺言が無効になります。

認知症等の場合は遺言できないの?

しかし、認知症や重い精神病を患っている方、あるいはその疑いがある方も、遺言できる可能性が一切ないというわけではありません。遺言をした時において、遺言の内容を理解してその遺言の結果を弁識することのできる意思能力(遺言能力)があったのであれば、有効に遺言をすることが出来ます。

もし意思能力が認められるかについて不安がある場合には

  • 意思能力がある旨の医師の診断書を用意しておく
  • 遺言書を作成している様子をビデオ録画するなどして記録しておく

などの方法により、遺言したときに意思能力があったことを証明できる証拠を残しておく方がより安全であるといえます。