少子高齢化の時代をワークロイドで支える
株式会社テムザック

人口減少や超少子高齢化社会が進む現代において、ロボットは私たちが日常生活を送る上で必要不可欠のものとなる日が近づいてきています。しかし、現在はまだ、稼働しているロボットの多くが工場などの日常生活とは切り離された場所にあり、人との関わりを想像しにくいという方も多いかもしれません。そのような中、より直接的に人々の生活を支援するロボットの開発に取り組み、人々の健康維持に貢献している企業があります。今回はそんな株式会社テムザック様にお話を伺いました。

株式会社テムザックとは

※京都本店・中央研究所

我々はロボットを開発している会社でございまして、その種類は人々の健康維持にかかわるものを含め、かなり幅広い領域に及んでいます。
私たちが開発を行う際のスタンスは、「人を集めたくても集まらない業界や、人が作業をすると危険が生じうる仕事などに対してロボットを入れる」というもので、そのような業界に役立つロボットの開発を目指しています。
健康寿命を延ばすという点で開発されたものとしては電動車椅子の『RODEM』があります。この『RODEM』は一般的な座る形の車椅子とは少し形が異なります。一般的に車椅子と聞いて思い描くのは、前から後ろに座り込むタイプのものだと思いますが、『RODEM』の場合は、後ろからの乗り降りを想定した“座面に跨る方式”を採用しています。そのため、車椅子からの乗り降りがしやすく、足腰の悪い方の移動ツールとしてお使いいただくことが可能となります。
しかし、私たちとしては、車椅子として認知されるというよりも、新しい乗り物として認知していただきたいと考えています。そこで、現在は観光のためのツールとしても活躍できるのではないかと考え、京都の嵐山や、東京丸の内、奈良の平城京跡歴史公園などを走らせました。
このように、我々は利用者を狭めない、ある意味「懐の広いモノづくり」を意識してプロダクトを行っています。

RODEM開発秘話

※アイディアが閃いた瞬間を再現する瀬戸口様

最初は九州大学附属病院の先生から車椅子に乗っていらっしゃる方々の課題を出してもらったところから始まりました。一般的な車椅子の場合、椅子から車椅子に移る際は、椅子と車椅子を90°に置いた状態「よっこらせ」と身体を動かすんです。これは車椅子に乗る人にとってすごく危険だし、介助する側の人にも、非常に多くの力が必要となります。
これをどうにか解決してくれないか、と弊社の創業者である髙本が要望を受けました。髙本はその要望を受け、この課題をどのように解決するかについてずっと考えていたそうなんです。そんなある日、椅子を逆向きにして跨り、背もたれに腕を乗せて馬乗り状態でテレビを見ていたらしいのですが、ちょうどその時にアイデアが降りてきたというか。後ろから跨って乗れる車椅子なら、安全かつ簡単に車椅子への移動ができるのではないかと思いついたのだそうです。

開発の苦労

※電動車椅子の枠を超えたGerontechモビリティ

製品を開発する際のステップにおける苦労というのはもちろんあります。しかしこの『RODEM』を製品化するまでの最大の苦労は、電動車椅子として認めてもらうことにあったと思います。
前述のとおり、『RODEM』は一般的な座る形の車椅子とは形が異なります。なので、そもそも電動車椅子として認めてもらえず、日本では実証実験を行う許可すら降りませんでした。結果として、福祉先進国であるデンマークの介護施設をフィールドに、『RODEM』を持って行って、実証実験を行いました。
デンマークの介護施設は日本とは異なり、お年寄りをみんなでお世話するという形ではないんです。むしろ介護士の方たちはお年寄りに対して「もっと動きなさい」とか、「もっと食べなさい」と言うんですよ。「足が動くんだったら極力動かしましょう!」と。我々から見るといじめているんじゃないかと誤解してしまうぐらいにお年寄りを動かせるんです(笑)。
しかし、デンマークで実証実験をさせて頂く中で、介護をしている側とされている側の両方の反応を見ていて気づいたことがありました。それは、いわゆる一般的な車椅子だと、ただ座って走行する形になってしまうのに対し、馬乗りになって走行する形の『RODEM』だと、自分がアクティブになったような気がして、「自分で動きたい!」という気持ちが生まれているようだということです。しかも『RODEM』の場合、自分で操作して動かすことができるので、自己効力感の向上にも繋がります。つまり、『RODEM』に乗ることが、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)にも大きく寄与するのではないかと思っています。
このデンマークでの実証実験の結果を確証として日本に持ち帰り、『RODEM』は車椅子として十分生きるはずだということをお話ししました。そうしているうちに、国の機関等も含め、いろいろな方々から後押しをしていただけるようになり、最終的に「馬乗り型車椅子」としてJIS規格になりました。
車椅子として認められなかったところからスタートした『RODEM』が、このような経緯で車椅子として認められたということは、苦労というよりも乗り越えたという表現の方が正しいのかもしれませんが、一つの成果でもあり、とても喜ばしいことだと思います。

お客様のニーズを引き出す力

※お客様の理想を超える課題解決を提案

九州大学の先生は、最初から、このような馬乗りになる形の車椅子を作ってくれとは一言も言っていないと思います。それよりは、「車椅子の乗り降りはとても大変で、危険が多いという課題があるから、とりあえずそれを解決してもらいたい」というご要望を頂いただけだったのではないかと思います。しかし、我々は基本的にご要望をいただいた時に、「はい、わかりました。じゃあ作ってみます」という仕事の受け方はしていなくて、「それでは実際に現場を見せてください」とか「本当の課題は何だろう」ということを考えさせてもらう時間を設けています。これは、お客様のご要望を前提に、我々の専門的な視点からどのような問題解決手法が考えられるのかを整理するために、非常に重要な時間となっています。これにより、お客様が意識していないニーズや、お客様が描いている理想をなるべく探るような形で、お客様の理想を超えるものを作っていく。これを常に意識してモノづくりを行っています。
このように、頂いた課題を、我々テムザックなりに、「解決するためにはこうした方がいいんじゃないか」と考えて相手にご提案できるというところが我々の強みであり、今後もしっかり伸ばしていきたいところです。

お客様の要望から社会課題を見る

※下水道調査用の新型ワークロイド クモ型ロボット「SPD1」

社会課題を最初から意識してロボットを作る機会はなかなかないのですが、お客様のご要望から、根本的な社会課題の存在を意識する機会というのは、結構多いです。だから、もともと自分達で社会課題を必死に探しているというよりも、ご相談の内容を聞いて、これは本当に解決しないと日本が大変なことになるんじゃないか、と社会課題を突き付けられることはこれまでたくさんありました。
例えば高齢化が進んでいる業界では、年齢層の高い方々が先陣を切って仕事をし、引っ張っていっているから成り立っているという現状があります。しかし、これをこのまま放置していたら、近い将来担い手がいなくなりますよね。ある日突然、ロボットに「業務の大幅な範囲をカバーしてほしい」という要望が来る日が来てしまう。そこで、10年後、本当に担い手がいなくなるおそれのあるところに、今のうちにロボットを入れておくことで、導入当初は生産性がそこまで高くないかもしれないですが、今いる方たちが辞めざるを得なくなる頃には、少しずつでもそれをカバーできるようなロボットになっているということが大切だと思っています。このように、ロボットを今のうちから入れておくことは、近い将来起こることの準備をすることができるんです。
このような例はいくつかあるので、課題をいただく中で、社会課題にも向き合い、それを一つ一つ解決するための助けになるといいのかなと思っています。

ロボットを含めた環境デザイン

※自動配送RODEMの活用イメージ

ロボットを作ってロボットを売るということが我々の本業ではあるのですが、おそらくロボットを使用してもらう仕掛けや仕組みもセットで作っていかないと、他の国のもっと安いロボットに負けてしまうこともあると思っています。そこで、我々は、もともと日本に積み上げられてきた伝統的な歴史観との組み合わせを行ったり、機械だけでは成立しないような、人間もシステムの一部として、必ずセットにしなければならない仕組みづくりも併せて出来ないかと考えたりしています。そうすることによって、機械だけを他国からもってくれば成立するようなものではないロボットを仕立てていくことができるのではないかと思い、現在試行錯誤しています。
「お客様の声を聞くだけでは100点しか取れないけれど、そこに何かを追加することで120点を目指すことができるみたいな。そのような仕組みづくりも一緒にしていくことで、人にとってもロボットにとっても環境にとっても良い環境を作ることになり、結局は皆さんに選んでいただけるようなロボットを作ることができると思っています。

伝統工芸×最先端ロボット

※着物を着て、漆塗りのRODEMに乗り京都観光するイメージ図

ロボットと伝統的な歴史観との組み合わせや、ロボットと人間がセットになるような仕組みづくりについては現在試行錯誤中ですが、その中で既に実現できていることもあります。それが伝統工芸と『RODEM』の組み合わせです。
我々は、長く福岡県宗像市にいたのですが、2017年に京都にも拠点をつくり、2021年4月には本店登記も京都へ移転しました。実はその京都のオフィスは、もともと西陣織を作っていた工場だった場所なんです。西陣織にも、織り機を使って機械で作る部分があって、その工場のオーナーさんが、ロボット製作に携わる我々にシンパシーを感じてくださり、「ぜひ京都でロボットのビジネスをやってみないか」とお声がけいただきました。そのような経緯で現在京都にオフィスを作ったのですが、それがきっかけでいろいろな京都の方々とつながりをつくることができました。そしてその繋がりで実現したのが、『RODEM』のボディー部分を漆塗りにするということです。これは、漆という日本伝統工芸との連携を行うことで、観光客、特に海外から来る方々に喜んで乗ってもらえるような乗り物にできないかと考えて実現したものです。
さらに今後は、西陣織などの着物をお召いただいて、漆塗りされた『RODEM』に乗って京都を観光してもらうとか、そのような観光サービスを総合的にパッケージングして取り組んでいけると、古き良き日本らしさと、最先端のロボットをうまく融合したビジネスになっていく気がしています。
さらに進んで、そこにタブレットまで搭載し、『RODEM』が観光案内や経路案内をしてくれるようになれば、ますます『RODEM』を“乗り物”として楽しんでいただくことが可能になるのではないかと思っています。
このように“車椅子”という認識に凝り固まらず、様々な場面で健康な人にも使ってもらうことが出来れば、結果として、足腰が悪い方にも使っていただきやすくなるのではないかと考えています。観光向けの乗り物としてなのか、介護用の乗り物としてなのか、どちらが先に広く認知されるかは、我々が決めるというよりも、市場に決めてもらいたいと思っています。

少人数精鋭で課題解決にあたる

※開発チームが横断的に各分野の課題に取り組むテムザック様

うちは小規模な会社です。大企業と比べると企業規模や生産性は劣りますが、少数精鋭で課題解決にあたることで、迅速な対応ができるようになります。中小企業と大企業では得意なことと苦手なことが違うんです。そこでお互いの苦手なことをカバーし得意なことを増やすために、大企業と中小企業で役割分担ができたらいいなと考えています。
うちのような中小企業はさまざまな業界向けにロボットを企画していくことに優れていますが、量産する必要が出てきた場合には、きちんと生産過程を管理するシステムが整っている大企業の方が優れているんです。だったら我々のアイデアを使ってくれる大企業さんと、どんどんコラボして世の中に製品を広めていくことが、みんなにとっていいんじゃないかな、とそういう考えを今、持っています。

未来を変える「ワークロイド」の開発

※ロボット分野の新しい概念ワークロイド

『RODEM』もそうですが、我々は、人間が行うと危険な作業がある業界や、人材を集めようとしても集まらない業界の仕事に向けてちゃんと役に立つロボットの開発を中心にこれからも頑張っていきたいと思っています。そして、このようなロボットを我々は「ワークロイド」と呼んでいます。分かりやすい例を挙げると、ゼネコンの建設現場に10個のCPUを持つ5体のロボットを置いて、ロボットがお互いに、自分の位置や、これから自分がやろうとしている作業を教え合い、じゃあ、あなたがこっちをやりなさいとか、こっちに避けなさいとか、私は天井を持ち上げますよ。とかいうコミュニケーションをしながら作業もちゃんとやるというロボットを開発しました。これは、産業用のロボットをそのまま工事現場に持ち込むだけではもちろん実現できないですし、タブレットをつけて歩き回るロボットもそんな作業はできないので、このワークロイドという分野の開発は、うちにとっても今後の日本にとっても強みになるのではないかと思っています。
そこで、「ワークロイド」という概念そのものをまずは普及させ、人に役立つロボットをしっかり作っていくことで、ロボットを入れると世の中が良くなるということをみんなに分かってもらい、新しいロボット産業がもっと生まれてくることを目指して、これからも頑張っていきたいと思います。

みんなのためのロボット作り

※使う人を狭めない乗れるロボット「RODEM」

“ジェロンテック”という新しい分野については、我々もまだまだ試行錯誤の部分がもちろんあります。ただ、我々が大事にしているのは、使う人を狭めない、『RODEM』でいうと「車椅子」としてではなく、「乗り物」という形を意識しながら作るという点です。最終的には屋内だったらもっと小型で小回りがきいた方がいいよねとか、外だったらもっと速い方がいいよねとか、いろいろなラインナップが出てくるのかもしれません。現在の『RODEM』はまだ初期の段階ではありますが、健康な方、例えば、海外から来た観光客も乗れるし、足腰が弱っている方も使えるというものになっています。これから色々な方に様々な場面でご利用頂いて、どういった形で使われるのか使いやすいのか、問題点はどこにあるのかという声を包括的に集め今後必要であれば細分化もする、というアプローチで取り組んでいけば、かなり幅広いニーズを汲んだものにしていけるのではないかなと思っています。