ご講演プログラムのご案内
本セミナー動画では、「争族」を未然に防ぐにあたっての遺言書の重要性や必要性について、法律の専門家ではない一般の方々にもわかりやすくご講演いただきました。
遺言書の必要性をお伝えする前提として、遺言書がある場合(遺言相続)と遺言書がない場合(法定相続)にそれぞれどういった違いがあるかについて解説します。
法定相続については、遺産分割協議の手順、フローチャートを交えた法定相続人の解説、豊富なケーススタディを交えた法定相続分の解説、遺産の範囲・遺産の評価の確定、争族ポイント1、2として各相続人の取得額の確定、争族ポイント3として分割方法の確定、競技での解決が困難な場合などについてお話いただいております。
遺言相続については、遺言書の必要性、遺言書の種類、遺言書を作成する際に注意するポイントなどをご紹介いただきました。
講師プロフィール
弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所
シニアアソシエイト弁護士 橋本雅之(はしもとまさゆき) 先生
埼玉弁護士会所属。中央大学法学部法律学科を卒業後、獨協大学法科大学院法務研究科法曹実務専攻を修了し、現在は弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所のシニアアソシエイト弁護士として、相続・離婚等の家事事件を中心に年間100件以上の法律相談を担当するほか、これまでに300件を超える事件を解決に導いており、現在では後進の育成にも注力するなど多方面に活躍中。
目次
第1 争族を未然に防ぐために(争族の2つの類型)
第2 法定相続
1.法定相続(遺産分割協議)の手順
2.法定相続人、法定相続分とは
3.遺産の範囲、遺産の評価を確定する
4.取得額を確定する(争族のポイント1,2)
5.分割方法を確定する(争族のポイント3)
6.協議での解決が困難な場合
第3 遺言相続
1.遺言書の必要性
2.遺言書の種類
3.遺言書作成の注意事項
第4 終わりに
第1 争族を未然に防ぐために(争族の2つの類型)
相続には①遺言相続と②法定相続の2つの類型があり、①遺言相続は故人が遺した遺言書に基づいて遺産を分ける方法をいい、②法定相続は、法律の枠組みに基づいて遺産を分ける方法をいいます。
両者の違いとしては、①遺言相続は「遺言書」によって故人の意思が反映される一方、②法定相続は法律に沿って遺産が分けられ、故人の意思は反映されません。
弁護士の相談の多くは②法定相続です。①遺言相続と異なり遺言書がないため、相続人全員で決めなければならないことが多く、相続人で骨肉の争いに発展することもあります。
第2 法定相続
1.法定相続(遺産分割協議)の手順
法定相続(遺産分割協議)は、
①相続人の範囲を確定する
↓
②遺産の範囲を確定する
↓
③遺産の評価を確定する
↓
④各相続人の取得額を確定する
↓
⑤遺産の分割方法を確定する、という手順で行われます。
①から⑤の全てにおいて相続人の全員の同意が必要になります。
法定相続において誰がどれだけ相続をするのかについては、遺言書が存在しない場合や遺言書に記載のない遺産については法律で定めた相続人が遺産を相続します。
法律で定められた相続人を「法定相続人」といい、法律で定められた相続分を「法定相続分」といいます。
法定相続人とは
大原則として配偶者は常に相続人になります(民法890条)。内縁関係にある者や同居人など、故人と生前どれだけ親しい間柄であっても、戸籍上の配偶者ではない場合、原則遺産を受け取ることはできません。
第一順位の相続人は、子や、子が既に死亡している場合の孫になります(代襲相続人:民法887条)。「子」とは実子のみならず養子も含まれます。
第二順位の相続人は、両親や(すでに両親が亡くなっている場合には)祖父母がこれにあたります。
第三順位の相続人は、兄弟姉妹がこれにあたります。
法定相続分とは
法定相続人が配偶者のみである場合、配偶者がすべての遺産を相続します。
法定相続人が配偶者と子である場合、配偶者と子がそれぞれ2分の1ずつ相続します。
法定相続人が配偶者と直系尊属(両親)のみである場合、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1ずつ相続します。
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹のみである場合、配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1ずつ相続します。
配偶者がいない場合は、順位に従って、同じ順位の相続人が分割して相続します。
相続人の範囲を確定する
☑法定相続にあたっては、まず相続人全員を確定する必要があります。
故人を基準に戸籍を取り寄せる必要があり、戸籍を取り寄せた結果、把握していない相続人がいる場合もあります。第三順位(兄弟姉妹)の相続や代襲相続が発生する場合は法定相続人の数も多くなります。
☑相続人の範囲を確定するにあたっての注意事項としては、配偶者には内縁関係にある者や同居している者は含まれず、あくまで戸籍上の配偶者のみが対象となります。
☑相続人に未成年者が要る場合
未成年者は法定代理人の同意や代理がない場合、法律行為を行えません。遺産分割協議も例外ではありません。
法定相続人が配偶者(母親)と子だけの場合、母親が子の代理人となって遺産分割協議が行われるのか?については注意が必要です。
この場合、母親と子の利益が相反するため、母親が代理人になることはできません。家庭裁判所に対して「特別代理人」の選任の申立てを行う必要があります。
☑相続人に認知症を患っている者がいる場合
認知症などによって意思能力が不十分である場合、遺産分割協議に参加することはできません。
他の相続人が、成年後見人として遺産分割協議に参加することもできません(利益相反)。したがってそのような場合、家庭裁判所に対して「成年被後見人」や「特別代理人」の選任の申立てを行う必要があります。
相続財産は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も対象となることに注意が必要です。
プラスの財産とは、現金、預貯金、不動産、株式、貴金属などです。マイナスの財産とは借金や未払いの税金などが挙げられます。
遺産の範囲が判明しないと、相続すべきか放棄すべきかの判断もできません。
現金や預金ならばあまり問題にはなりませんが、不動産や株式の価額については争いになることもあります。
不動産については、取得したい人(住み続けたい人)は低く評価し、取得したくない人(代償金を取得したい人)は高く評価する傾向にあります。
株式についても、取得したい人は低く評価し、取得したくない人は高く評価する傾向にあります。
自社株の場合はお家騒動に発展することもありえます。
各相続人の取得額を確定する
争族ポイント1(寄与分)
「私は、故人のために生前尽くしてきたから多く分けて欲しい」「被相続人のために生前に尽くしてきたことを評価して欲しい」というのは、法律的には「寄与分」を呼ばれます。
寄与分が認められる場合、寄与した相続人の寄与分を相続財産から控除した後の財産について相続分で分け、寄与者については、先ほど控除した寄与分を加えることになります(民法904条の2)。
寄与分にあたるためには「特別の寄与」(民法904条の2)と評価されなければなりません。
例えば、夫(父親)の入院中に頻繁に見舞いに行っていたであるとか、食事を作ってあげていたであるとかは、「通常」の協力・扶助義務の範囲でしかなく、「特別の寄与」とまではいえないケースがほとんどです。
争族ポイント2(特別受益)
「兄貴はすでに故人から優遇されていたから平等に分けるのはかえって不公平だ」「すでに他の相続人は生前から被相続人に優遇されていたはずだ」、というのは法律的には「特別受益」と呼ばれます。
特別受益が認められる場合、その価額を相続財産に加算して、その総額を前提に、遺産分割することになります(民法903条)。
争族ポイント3(代償金の捻出)
主だった財産が現金や預金など容易に分割できる財産ではない場合、具体的な分割方法で争いが生じます。その結果、終の棲家を売却しなければならない羽目になることもあります。
協議での解決が困難な場合
協議での解決が困難な場合は裁判所で解決せざるを得ません。家事調停や家事審判、訴訟などを申し立てることになります。つまり、従前、食卓を囲んでいた家族が法廷で相対することになります。
また、家事事件の場合は解決まで1年程度、家事審判まで移行した場合は最終的判断が出されるまで2~3年かかります。被相続人が亡くなってから5年以上経過していることもあります。
遺言書の必要性
☆ご家族が争わないようにするため
☆ご自身の意思が尊重されるようにするため
☆事前に避けられる相続問題を未然に防ぐため
「遺言書」を作成しておく必要があります。
遺言書とは
遺言書、遺言、エンディングノートの違い
遺言書:ご自身の死後における財産の処分等に関する意思が記された法的効力を持つ文書
遺言:ご自身の家族や友人に宛てた感謝の気持ちなどが記された法的効力を持たない文書
エンディングノート:葬儀の方法、連絡先、延命措置等の希望を記された法的効力を持たない文書
遺言相続が認められる法的効力をもつ文書は「遺言書」のみです。
遺言書の種類
代表的な遺言書としては自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言
①遺言の全文、日付、ご自身の氏名をすべて自遺で書き記す
②作成した日付を明記する
③署名・押印をする
なお法改正がされ、遺産目録については自筆の必要はない。もっとも注意が必要です。
自筆証書遺言のメリット
・ご自身が自筆・押印できる状態であれば容易に作成できる。
・公証人に支払う費用が発生しない。
自筆証書遺言のデメリット
・書式や記載内容に不備があった場合、無効になる可能性がある。
・発見者が秘密裏に破棄・内容を改ざんしたりする危険性がある。
・家庭裁判所にて検認が必要
・発見されない可能性がある。
法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用すると、自筆証書遺言を法務局で保管でき、保管された遺言書は検認が不要になります。
公正証書遺言
①公証役場にて、ご自身が遺言内容を公証人に口授する。
②ご自身が口授した内容を、公証人が筆記する。
③ご自身と証人(2人)の署名・押印をする。
公正証書遺言のメリット
・書式や記載内容等について公証人が確認するため、有効な遺言書が作成できる
・公証役場にて、遺言書が保管される
・破棄や改ざんされる危険性がない
・家庭裁判所にての検認が不要
公正証書遺言のデメリット
・公証人への手数料が発生する
・公証人や証人との日程調整をする必要がある
遺言書作成に際しての注意事項
・民法で定められたルールに沿って作成する必要があります。
・遺言能力:遺言の内容等を理解(把握)できるだけの判断能力が必要
・遺言書は更新できる
・遺言書は1通しか作成できないわけではない。
・時の経過とともに、ご自身の意向や実態とかけ離れてしまう。
・2通遺言書があった場合、新しい作成日の遺言書が優先する。
遺留分の侵害
・法定相続人のため最低限の相続分を保障する権利(遺留分)
・遺留分を侵害した遺言書の場合、遺留分侵害額請求される可能性があります。